19世紀前半期の「大学」

○雨模様なので終日在室で、フランス語。なかなか、集中して一気呵成に、とは行かない。 
○添付した写真(イラスト)は19世紀半ば(1841年)に出版された「ル・プリズム ーフランス人の精神百科」の一節にある「大学教育」という小品(エッセイ)に添えられたイラスト。19世紀前半期の時代・社会を知ることが出来る、そして今日の我が国にも通じていて、ぼくにとっては、はなはだ興味深い挿絵である。
 正装をした親子連れがある戸口をノックしている(男がヒモを引っ張っているのが今日でいうノック、呼び鈴を押すこと)。女性は子どもの襟首を掴んでいる(つまり、子どもは逃げだそうとしている)。「子ども」のこれからの「姿」を象徴しているようだ。
 この時代「大学(ユニヴァーシティ)」と言えば、現代の、猫も杓子もの<大学>(つまり、質さえ問わなければ、希望者は誰でも入学でき、まか不思議なことに、ほぼ全員卒業できる日本の<大学>)とはまったく異なり、オックスフォード、ボン、ゲッチンゲン、そしてソルボンヌを指して言う。これらで修学するためにはラテン語ギリシャ語といった「古典」は必須である。これらは、およそ8歳から10歳から学び始めないと「大学」で修学することは困難。それで、子どもを「大学」にやろうと考える親は、ラテン語ギリシャ語を教える寄宿学校(コレージュ(カレッジ):中等教育機関)に「子どもを放り込む」。24時間管理のもと体罰行使も当たり前で、徹底的にしごく。イラストは寄宿学校に子どもを預けようとするところを描いている。時と場ととは大いに異なるが、映画「今を生きる」のバックグランドもほぼ似たようなものである。
 さらにつけ加えると、イラストの子どもは、すでに「老化」した姿態で描かれている。イラスト作者は、子どもの終生の姿をも描いたのだろう。つまり、我が国に擬して言えば、「学歴」という鎖に繋がれて一生を終えなければならない、という人生像だ。 
 イラストの作者はDaumier, Honoré (1808-1879).興味深い人物である。