フランス語の読みを始めた頃の思い出

○2000年4月1日、ぼくはパリ入りした。一年間のサバティカルのためだ。しかしこの時点で、フランス語の理解はゼロだった。日常的には通訳をあてにすることができていたから不自由はない。一応サバティカルの目的はフレネ教育研究であったが、翻訳物で学習することができると思っていたから、読む能力が無くても、困らないと思っていた。まことに以て恥ずかしい話である。
 パリ入りしてすることと言えば、「見て分かる(だろう)フランス文化の書籍」を入手し、ぱらぱらと眺め、分かった気になることだ。「見て分かる」というのは「直観で興味引かれる」ということ。それは、パリの街づくり、であった。「石畳」をpavéということは真っ先に知ったことだ。それでぼくは、パリの街を放浪し、石畳を慈しむ「石畳の夕鶴」とのHMを持つに至った。
 6月1日から2ヶ月間、O氏がアパートに同居した。彼は語学学校に行ってフランス語を学ぶ、友人知人を作ってイギリスに一緒に出かける、肝臓を悪くしているので酒は禁止されていると言いながら毎日酒臭い息をして帰宅する、パリ・コミューンを「差別・抑圧された民衆が憎むべきブルジョアどもを相手にして勇猛果敢に立ち向かった戦争」との視点で史跡踏査をする、炊事は共同・輪番にするという約束は第2日から破り、あまつさえ、冷蔵庫に来客用に保管しておいた上質のワイン一本を,ことわり無く空けてしまう等々、手前勝手な王様生活を送るので、向かっ腹を立ててばかり。その反動で、ますます、ぼくは内にこもり、フランス語学習を完全に拒否した。
 ところが、6月の下旬にさしかかる頃、O氏に向かっ腹を立てるよりももっと向かっ腹を立てるべき相手を見つけた。それはフランス・ジャーナリズムだ。地下鉄・キオスクで売られている週刊誌「マリアンヌ」に「日本のなんじゃらがハラキリなんじゃら・・」と書かれているらしいことを知り、その記事をなんとしても読まねばなるまい、日本を未だに「ハラキリ」社会だと理解しているとしたら、痛烈な反撃をしなくてはなるまい、それには、なんとしても、記事を読まねばならない、と決意したのだった。
 仏和辞典はとりあえず日本がら持ってきていた。そしてpavéを引くぐらいは使った真新しいそれを頼りとして、一語一語意味を調べ、文法事項は辞書の巻末の記事で理解しつつ読み進めていった。初めの4日間で進んだのはたったの2段落。絶望的な気持ちになりながらも、内容は、どうやらぼくの専門領域(生活指導、ドロップアウト、登校拒否、少年犯罪等)に関わるらしいことが分かってくると、オラ止めた、とはならなかった。分からない、辞書をくまなく読む、理解する、という繰り返して、2週間かけて全訳することができた。
 おそらく誤訳のオンパレードだったろう。原文はどこかにしまい込んでしまったため見いだすことができないが、翌年修正の手を入れた訳文は、今朝、ハードディスクに保存されているのに気づいた。10年ぶりの<ご対面>である。さっそく別ブログの頁にインストールした。「日本の教育レポート どうして青年期はハラキリをさせられるのか」と題する一文である。
 さっそくO氏に読んでもらおうと、プリントアウトをし「マリアンヌ」誌と辞書とを持って、彼に提供した居室を訪問した。ところが彼の反応はまったく別のところにあった。吃音が入った彼の言い分の内容は、「辞書は丁寧に使わなければだめだよ。」というものであった。やや彼の顔がゆがんでいたのは、ぼくのひがみでも何でもない。2週間の酷使で辞書は新しさをまったく失っていたからだ。
 その辞書はその後も使い続けられた。今は4代目を使用しているが、初代のそれは、確か、姫さまの手に渡っているはずである。違ったかな?ぼくの手元にはないが、捨ててはいないのは確かなことだ。
 それにしても、辞書の単語を覚えたらその頁を食べてしまい、辞書頁が無くなってしまうことがO氏やぼくの語学学習の「常識」として語られていたのになあ、とつくづく思うのである。そして、今もなお、辞書頁が減っていないからこそ、フランス語は読めないのだなあ。

○次の一覧の中から何を選ぶか。「ル・プリズム」内容柱
L’Enfant charmant 魅力的な子ども Mme Eugènie Foa
Le Jeune homme 若者 Henri Rolland
Les Maîtres chanteurs 歌の指導者 F. de Valrine
Les Premières représentation 初演 F. G.
Les Amis de collège 学友 F. G.
Les Examinateurs 試験監督 Anonyme
L’Ermite du Vésuve ヴェスヴィオ山の隠者 Alexandre Rabot
Les Incomplets 未完成 Andrèas
Les Femmes littèraires 文学好きの女性たち F. G.
Les Flotteurs 筏師たち E. Séguin
Les Anglais en Suisse スイスでのイギリス人 F. F.
Petits Métiers littèraire 小品 F. G.
Les Albums アルバム F. G.
Le Gant-Jaune napolitain ナポリの黄色い手袋 Alexandre Rabot
Les Saturnales お祭り騒ぎ Frédéric Kessler
Le Club de petite ville 小さな町のクラブ Anonyme
Le Martyr de la liberte 自由の殉職者 E. Oerlliac
Un Foyer de théatre 演劇の火 L. Roux
Les Villas parisiennnes パリ郊外の邸宅 Francis de Valrine
Les Banquets d’anciens écoliers 旧制度下の学生のバンケット Aloysius
Le Propriètaire campagnard 地方地主 Le chevalier Joseph Bard, de la Côte-d’Or
Le Correspondant des jounaux 通信員 E. O.
Les Hôtels du quartier Latin カルティエ・ラタンのホテル L. Roux
Les Mètiers littèraires
 Le Journal industriel 雑記
 工業新聞 Anonyme
Physionomies du jour de l’an 元旦の顔 F. G.
Les Visiteurs du salon (I) サロンの訪問客 (I) F. G.
Le Conducteur d’omnibusu 乗合馬車の御者 Charles Friès
Les Petits métiers littèraire
 Le Rèdacteur industriel 小品
 産業停滞装置 Francis G.
Le Boukevard des Italiens イタリアン大通り Edmond Texier
La Femme sans goût センスのない女 L. P. O.
Les Visiteurs du salon (II) サロンの訪問客 (II) F. G.
Paris nocturne 夜のパリ L. Roux
Le Blasé 無関心 Auguste de Lacroix
La Semaine sainte à Paris パリの健康週間 Émile de la Bèdollierre
La Rue ou l’on ne meurt pas. 決して傷つけられない道 L. Roux
L’École primaire
 Scènes de mœrs 小学校
 生活態度面 Ed. O.
L’Ami d’un homme célèbre ある有名人の友 E. Ourliac
Le Nouveau Paris 新しいパリ A. Achard
Le Décrotteur 靴磨き L. –A. Berthaud
Les Touristes en Italie イタリアの観光客 Francis Guichardet
Une Éducaion universitaire 大学教育 Hubert de Romilly
La Confession d’un danseur あるダンサーの告白 Gabriel Cournand
La Journée d’un médecin 医者の一日 L. Roux
Les Musiciens ambulants 旅回りの音楽家 Maria d’Anspach
La Misère 悲惨 Andréas
Les Appartements à louer 賃貸アパルトマン A. de Lacroix
Un Patriote provençal プロヴァンス地方のある革命支持者 Adolphe Dumas
La Rue des Lombrds ロンバー通り(高利貸し通り?) Andréas
La Cacoletière 二椅子付き鞍(キャコレット) G. de Lavigne
Les Lions de Contrebande 密輸入のライオン F. G.
La Barrière de la Villette ヴィレットの柵 L. Roux
Le Marchand de nouveautés 新製品販売人 P. Bernard
Le Vigneron 葡萄栽培者 F. Fertiault
Les Canotiers ボートの漕ぎ手 Charles Friès
Le Pènitent 告解者 Eugène Avond
Paris pour les marins 船乗りのためのパリ G. de la Landelle
La Faubourg Saint-Germain ファブール・サン=ジェルマン P. Bernard & L. Gouailhac
Le Coureur d’héritages 相続の伝令者 Moléri
Le Garde champètre 田園監視人 François Goquille
Le Berger 牧羊犬 Étienne de Neufville
Le Marais マレ地区 L. Gouailhac
Les Restaurants du Quartier Latin カルチェ・ラタンのレストラン L. Roux
Les Bals d’été 夏の舞踏会 Amédée Achard
Les Passagers (船の)乗客 G. de la Landelle
L’Étudiant en vacances 休暇中の学生 L. Roux
Les Bals d’hiver 冬の舞踏会 Amédée Achard
Les Fêtes à bord (I) 沿岸の祭り (I) G. de la Landelle
L’Huissier de campagne 田舎の受付 Eugène Nus
Le Souffleur ふいご係 Charles Friès
Les Écoles de natation スイミング・スクール Charles Friès
Le Stènographe rédacteur 速記縮写機 A. Jadin
Les Fêtes à bord (II) 沿岸の祭り (II) G. de la Landelle
Le Paysan Marseillais マルセイユの農民 Tzxile Delord
Certains vieux cèlibataires 年老いた独身者たち Camille Bernat
Le Chimiste 化学者 Andrèas
L’Abonné à un théatre de province 地方劇場の定期利用者 Charles Durand
Les Fêtes à bord (III) 沿岸の祭り (III) G. de la Landelle
Le Bayonnais バイヨンヌ人 Germond de Lavigne
La Gouvernante du curé de village 村の司祭のお目受け役 François Coquille
Le Roulier 車引き Charles Durand
Les Fêtes à bord (IV) 沿岸の祭り (IV) G. de la Landelle
Les Consei ls de révision 徴兵検査 Amédée Achard
La Sous-maîtresse 女助教員 F. de Joncières
Le Commissaire-Priseur 競売吏 Charles Friés
Le Parisien en province 田舎のパリッ子 Molèri
Les Réfractaires 徴兵拒否者 Amédée Achard
Les Fêtes à bord (V)(VI) 沿岸の祭り (V)(VI) G. de la Landelle
Les Habitués de la cour d’assises, proverbe 重罪院, 格言 Marc-Michel
Le Colporteur 行商人 Amédée Achard
Le Porteur de jounaux 新聞配達人 L. Roux
Le Maire de village 村長 Moleri
Le Bénéficiaire de concert 音楽会の受益者 Alfred des Essarts
Le Monde des romans
 Les Femmes émancipées 小説の世界
 解放された女性 F. G.
Le Banquier 銀行家 F. Fertiault