ガンは無し

○5週間ぶりの診察。今日はかなり緊張して先生の「お言葉」に聞き耳を立てていた。が、次回の診察予定の話が済んでしまった。いつもはそれで診察は終わり。だから今回もそうなのだろう…が、ぼくは勇気を振り絞って、尋ねた。
「あの・・・、前回のお話しだと、今日はガン検査の結果についてご教示いただく、と。」
 先生は、一瞬きょとんとした顔をなさった。それでぼくは確信した、「忘れてしまうようなことなのだから、ガンは無し!よかったよかった。」と。
 天下の名医も、診察結果を、オロオロしている患者に告知することを忘れるのだなあ。ヤブ教授(元、ね)が授業中ど忘れしてしまいあとが出てこず、かなり時間が残っているにもかかわらず、「今日の授業はこれでおしまい!」と、宣告する前科を持っていたって何ら不思議はないのだなあ。 
 が、しかし、授業は単位をばらまけばすべてよしだけど、ガンは命がかかってるからなあ、ここはちゃんと落とし前を付けて欲しいなあ。
 ぼくは天下の名医にガン飛ばしをした。オラッ、ガンは、どうなっとんのやっ!
 カルテをぱらぱらと見ていた先生、「あ、そうだったな。…pH値がなんたらかんたらだから、まったく問題ないよ。」と、にこやかにのたまう。前回多少命が縮んだ思いをしたが、今回は、どうやら、無駄にだろう、延びたようだ。
 約2時間かけて自宅に(歩いて)帰り、さっそく、若やいだ心で我が愛し?の君(タビチョ)に「ガンはないって」と告げた。とくに返り言葉無し。つまんないッス。
○創作エッセイ 「くれぐれもナンパに注意、ね。」
 診察待合室で、今日の異常な混雑にちょっと苛立ちが出はじめた頃、ガラケイにメールが飛び込んだ。過日、デパートの待合どころで、「お暇かしら?」と、<かつて妙齢であった>と称すべきご婦人から声を掛けられたことをネタに、我が現妙齢のご婦人の友人から、何かにつけ、この話題を振られる。「いえ、あれ以来、こちらがナンパしたいと思う人は山ほどおられますが、手が前に回りかねないご時世なので、ぐっと自制している状態でございますよ」と返信する。
 長い長い待ち時間に比して診察時間は、えっ、ぼく、今、座ったばかり!と叫びたくなるほどでしか無く、帰宅の途につく。
 今日は幾分か心と体が軽く感じるので、約2時間の道のりを、杖つき歩行。行程を三分割し、2カ所で小休憩を取るというプラン。その第一休憩ところは公園。きちんと整備されており、快適な空間であった。
 と、イケメン好男子3人、元イケジョ3人のグループがやってきて、ぼくが座っている椅子の周り―そこはこの公園の中央部―で、イケメンたちがイケジョたちに声を掛けたかと思うと、イケジョたちはそれぞれ、近くの桜の木の幹と取っ組み合って運動を始めた。
 ホホー、と眺めていると、とびっきりのイケメンが、「おじいさんどこから来たの?」と声を掛けてくる。身体で表現を加えて、話します、「あっちから来たんだけど、こっちへ行きます」と。あっちは病院方向、その反対方向がこっちで我が家の方向。「そう、あっちから来てこっちへ行くのですね。おじいさんのお名前はなんて言うのですか?」
 ありゃりゃ・・・。
 その声を聞いた元イケジョのどなたかが、「そんなボケ、ほおっておきなさい!」ときついご下命をなされたのでした。「でも…」「いいから…」「いや、やはり…」
 ここで、もめことはちゃんと収めましょう。「私は、あっちのほうにある名戸ヶ谷病院で診察を受け、こっちのほうにある我が家に、運動を兼ねて帰るところです。」
 それを聞いた普通にイケメンが「ぼくたち○○というところの者です。ご存じですか?」と聞く。「ああ、デイサービスをなさっているところですね。」「よかったら、是非、ご利用ください。」
 こういうナンパがあったということも、現妙齢のご婦人の友人に伝えなければなあ。あまり伝えたくないけれど。
○心の置き所が難しいというか、心の距離の取り方が難しくなっている。