♪知らない街を歩いてみたい、どこか遠くへ行きたい♪(4) ある老軀者の回想

(承前) オセールに関する予備知識はインターネットで仕入れた程度である。中世期には大変栄えた都市であった、サン=ジェルマン大修道院のコレージュに大学準備課程も置かれるようになり、フランス革命期までは確かに存続していた、また同地には、フランス革命期以前にも、パンシオン(pension)やパンシオナ(pensionnat)という寄宿学校が創設されていた。
 ほぼこれだけの情報を持って、初めての土地オセールに向かう。
 駅舎からも小高い丘陵地に密集している石造りの街、そしてとりわけ偉容を誇っている教会や修道院の塔を眺めることができるから、目指す方向に迷いはない。
 やがてヨンヌ川にぶつかる。川はゆったりと流れている。ヨンヌ川に架かるポール・ベール橋の上からオセール市街を眺めると、これまで幾つか歩いたフランスの旧中世都市とは比較にならないほどに大きい。そしてまた街作りが少々異なるように思われる。これまで見てきた旧市街の作りは教会を中心にして街が同心円に拡がっていくのだが、オセールはヨンヌ川沿いに教会や修道院が作られている。つまり、ヨンヌ川を要塞の一辺とし三方を城壁・要塞で囲ってできた街のようである。水面に映る姿も美しい。

 橋を渡り終える。さあ、「知らない街」に脚を踏み入れたぞ。目指すは、まず、観光協会。物見遊山ではなく特殊な目的を持っているので、その目的を果たす予備段階として、ぼくはいつも、観光協会を訪ねることにしている。
「この街で、歴史の古いコレージュを調べたいのですが、今も存続しているのならその校舎を見たいのです。分かりますか?」
「この街は歴史が古いですし、古くからあるものは大事に保存し、また活用していますから、きっとあなたの望みは叶えられるでしょう。ただ、今はハローウィン休暇に入っているところが多いですから、校舎内見学は出来ないかもしれませんよ。」
 案内嬢はそう言いながら、オセールのほぼ白地図に近い印刷物に、ぼくがオセールに入ったところを→、観光協会があるところを×印、「古いコレージュがある街区」を大きく丸で囲んで、ぼくに書いて渡してくれた。
「メルシー ボクゥ マダム アバー」
「ジュヴザンプリ アバ−」