終日在宅

セガン研究話(12)
 セガンに内在する子どもの生育観を知る手立てを、たびたび触れているように、セガン研究者たち、とりわけ日米の関係者は、セガンの最晩年の著書『教育に関する報告』(1875年著書)に求めている。ちょうど国際的にルソー『エミール』の高い評価(第一次新教育運動)のうねりがあったことと合致している。
 その著書の出版より約30年前にセガンは『白痴〔等)の精神療法、衛生、教育』(1846年著書)を公刊している。セガンの教育論を最も代表する著書として読み継がれてきたという。セガンの教育論体系が完成したともされる。だとすれば、つまり、大方のセガン研究者の言うことに従えば、当然、ルソー『エミール』流の教育論が明示されていなければならないだろう。
 同書に「年齢」に関する章がある。子どもの発達段階を示す年齢が、3歳まで、7歳まで、14歳まで、とあり、健常児の場合は、それぞれ乳母の子守歌で、祖母の小話〔昔話〕で、家庭教師の課業で、養育される、とある。この養育過程をセガンは常態として受け入れており、子どもの自然な発達を損なうとは述べていない。『エミール』がむしろ否定した世界であるにもかかわらず、だ。
 こう考えると、セガンが育ってきた過程は、1875年著書に綴られた世界はむしろ虚構世界であると、断定して間違いないだろう。そして、1846年著書の育ちの過程は、貴族や有資産階級に常態であった乳母ー里親ー個人教育(家庭教師)、その後、寄宿学校(コレージュ)という養育・教育の道を、セガンは歩んでいたのであり、親の役割は、社会的な立場(身分)にふさわしい装飾の数々を子どもに飾り付けることであった。とても近代家族論(近代民法)で理解することはできない世界である。
セガン1843年論文翻訳 第5章 承前 (第5章終)
結局、この訓練とそれに続けて行ったすべての訓練によって、三角形は四角形より単純な形である、という結果が得られた。記憶するところを思い起こしてみると 、古い時代のどこにでもあるモニュメントに三角形が四角形より先にあるのだ(1)。さらに、これら二つの形の生成の計算上の可能性を探求してみて、私は、四角形を形作る四本よりも、三本の線、あるいは三本の棒が、偶然、それらの先端が隣り合って、またそれ故に、三角形を形作り、一つにまとまることの方が何千倍もの高い確率があることが分かった。なおまた、例えば、三本の線が交わった時には、つねに、一つの三角形を作るのに、四本の線は、完全な四角形を作る前に100の方向に交わらせることができる。こうした経験や今さら述べる必要もない他の多くのやり方で確認された観察から、私は、白痴のための書き方と描画の諸原理を推論することができた。諸原理はその適用が非常に簡単であるが、もう少しこだわってみよう。
(1) 古代エジプトのモニュメントの中に、また非常に古い時代の家具でもそうだが、四角   形に先行する三角形が見られる。また、三脚の家具が四脚台に先行する。
 そこで、私が概念の学習のために準備していた道がようやく開かれる。私は、一本の水平線に一本の垂線の下部を結びつけ、それぞれを、反対側の端に一本の斜線で束ねる。それで、生徒は直角三角形を作る。完全な四角形が得られるように、四つの三角形がそれぞれの頂点で合せられる。続けて、その中心から、砂時計の形を作っている斜線が消される。次に、平行線だけで四角形を描く。そのあとで、子どもは、任意の一本の直線の周りに曲線を描き、完全な円を描く。最後に、これらの概念をすべてごちゃごちゃにしてから(見かけは非常に簡単だが、質は非常に貴重である)、生徒は、最小逃さず、方向も、結合点も、あれやこれやの大きさと配置の関係もたがえず、寄せ集められた無限の形を作る。そして次のことが理解されるのである。つまり、これらの形はすべて、基礎となる線に第二の線を、そして第二の線に第三の線を、などなどと接いでいくように、一つの線から出発して系統だって作られている、ということだ。驚くほどのこの正確な模倣は、私は思うに、想像力が失われているため、その威厳を失ってしまっている。その通りだと言わざるを得ない。だが、急いで次のことを付け加える。その時までは、模倣は、比較とともに、白痴の子どもが描くことを学ぶという、いわゆる奇跡の役割を演ずるのだ、と。ところが、奇跡は私の目的ではない。この訓練で私が求めるもの、それは規則的な形を描くことの能力である。そして私はそれを生み出した(2)。後に、何も意味しないような、だが、能力を発達させ、注意力と比較力とをつなぎとめ、知性の働きへの準備となるこれらの記号に、心のうちで生命が与えられるはずだと、私は考える。
(2)『遅れた子どもと白痴の子どもの教育の理論と実践』(エドゥアール・セガン著,1842年。ゲルメール・バリエール、エコール・ド・メドシヌ通り)と題したパンフレットを参照。